動物考古学のすゝめ 標本収集編

2024年6月6日
こんにちは。今回のコラムを担当します東北歴史博物館の山田凜太郎と申します。

本日わたしからは、動物考古学でも基本中のキ、避けて通れぬ「標本集め」についてお話ししたいと思います。

遺跡から出土する動物の骨や殻を同定するためには、現在の動物を骨や殻にした標本が必須です。どんなに素晴らしい分析でも、元とした標本に不足や不備があれば、もうそれだけでその研究はインチキということになりかねません。動物考古学にとって、標本とは文字通り命なのです。

標本集めの3原則は「拾う」「買う」「もらう」です。このうち「拾う」には強靭な肉体と体力・羞恥心をねじ伏せる精神力・前世からの徳と運・地形を読み切る洞察力が、「もらう」には絶大な愛嬌と交渉力が必要になります。参考にしてください。

そしてここでは、最も運と肉体と人格が絡まない「買う」に焦点を絞ってお話をします。標本そのものをひたすら買うとなると実家が石油王でもない限り無理(単価が高額)なので、大抵の場合標本を作るための動物を買うこととなります。一昔前は、魚を集めるとなれば魚屋に通いつめ買いまくり、店主と仲良くなってからが本番。商品となるもの以外の魚についても相談・融通してもらうということが普通でした。

しかし現在は本当に便利になりました。インターネットやSNSを介した販売があります。例えば日本最大のオークションサイトでは、年間を通じて一般的な食用魚だけではなく、珍魚や深海魚が売られています。一度購入すれば販売元の魚屋さんと直接つながることもでき、刺し網や底引き網の魚を一括で購入する相談にものってもらえます。実店舗よりは割高ですが、種類を確実に集めるなら活用するべきでしょう。

しかしながら、当然デメリットもあります。例えば私の経験では、写真と違う魚が届いた、気軽に購入したら1.5mのサメだった、ヌタウナギだった(骨がない)、ナマコだった(同左)、常温で送ってこられて届くころには滅茶苦茶(自主規制)なことになっていた、などがあります。実店舗と違い相手の顔が見えないので、そういった部分でのトラブルはどうしてもあります。メリットとデメリットを鑑みて、最良の選択をするとよいでしょう。

最後となりますが、購入する場合どうしてもまとめて購入せねばならず、同じ動物が著しく手元に被る、ということがしばしば生じます。こうした魚を譲渡・交換できるようなシステムは個人間のつながり以外に現在ありませんが、日本動物考古学会会員間でそういったことができるようになるとうれしいなと思いました。よろしくお願いします。

1.5mのサメを前にして途方に暮れるもとりあえず写真をとる筆者

執筆者紹介
山田 凛太郎(やまだ りんたろう)
プロフィール
平成28年3月 東北大学大学院文学研究科 修了
令和4年3月 京都大学大学院人間環境学研究科 単位取得退学
令和4年4月より 東北歴史博物館 勤務

専門分野 動物考古学
東北地方の縄文時代における生業を研究しています。

主要な業績
山田凜太郎2017「宮城県里浜貝塚における縄文時代後晩期の動物利用」『Bulletin of the Tohoku University Museum』16 pp.27-67
山田凜太郎2019「縄文時代後晩期の魚類利用とその時期差ー仙台湾周辺から三陸沿岸を例としてー」『動物考古学』36 pp.21-34
山田凜太郎2021「縄文時代後晩期におけるニホンジカの利用とその時期差ー仙台湾から三陸沿岸を中心にー」『考古学研究』67-4 pp.18-38
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